テニスコートは、とても暖かだった。
夏と同じかっこで、半そで、半ズボンで、プレーしていた。
みなどこか、年内の打ち納ということで、
決まるショットひとつに、今年最後の一番と、きっと、
確かな手ごたえを感じとろうとしていたのだろう。
まあ、俺は、怪我すると大変なことになるので、
あまり、テニスでは、むきになることはない。
3時間のテニスを終えて、一杯やりにいった。
曳舟駅の踏切を越えたあたりの
古い店構えで、腰の低い、店長、甲高い声で、オーダーを一所懸命
復唱する奥さん。
とりあえず、生ビールを頼んだ。
すると、出てきたお通しがスゴイ!
マグロ刺身2切れ、海老フライ1つ、ジャガイモのフライと、
豪華なつまみ。
「もうこれで十分」と、いうぐらいの豪勢なおつまみや。
こうして、一年が終わっていくのかと、なんだか、名残惜しくなり、
ガンガン、瓶ビールを頼みまくった。
スポーツの後のビールは旨いぜ~!
と、オヤジたちの、飲み会はつきない。
腹が減ったので、蕎麦を頼んだ。
これでお開きかな~と思うと、
いつの間にか、グラスがすっからになってるのを見ると、
「どう、もう1本だけ」といいつつ、
結局、さらに、2,3本飲み続けたぜ。
隣の老いた2人組客が、話しかけてきた。
「俺はもう75過ぎだぜ、こっちは、79歳の先輩なんだ」と。
「台東中学を中退して、若い頃から働いてきた」と。
「兄さんたち、テニスやるのかい?どう見てもゴルフの格好には見えねえからな」と、
強面の爺さんだが、ご機嫌に、話してくれる。
「帰り道気をつけな。自転車で、転んで、川におっこちねえようにな」と。
仲間3人で、店を出た。
俺の親父も生きてりゃあのぐらいの歳だな。
ん?
「なんで、あの爺さん、俺が自転車で来たのわかったんだろう、それに川を越えて帰ることも...」
ときどき、こういうことがあるんだ。
死んだ親父が、誰かの姿を借りて、俺に何か忠告しにくるんだ。